夜明けの夢。

永い間意識が遠退いていた。
ユックリと眼を開けると
目の前に貴方が居た
時計の針は僕の意識が遠退いてから
長針が360℃廻ったと貴方は僕に告げた。
悪夢に魘されていた僕は
此処に存在する世界が本物で
今迄、見ていた世界が偽物の様に思えた。
僕は永い間偽物の中に存在し
偽物の柵に束縛され
死を望み
死んだ。
嗚呼、死んで仕舞って良かった。
此処が死の世界だとして
嗚呼、矢張り僕は死んだのか。
僕の肉体は滅びたのか。
此れで良かった。
今、目の前に居る貴方は
僕が渇望して已まなかった貴方なのですね。
僕には既に肉体はありません。
彼の醜い肉の塊から開放されたのです。
此処には僕の望んだ愛も友情も
友達も恋人も幸せもあるのですね。
   
・・・。
でも、貴方は其れを不幸だというのですか。
全てが在ると言う事に。
そんな物が無くても
其れを追い駆ける行為に最大の喜びがあると。
然し、其れは真の幸福ではないと。
そうですか。
だとすると、彼の醜い肉の塊がある世界こそ
羨むべき世界だと。
そう、貴方に聞かされた刹那。
僕は此の世に舞い戻った。
亦、此の醜い肉の塊へ
僕の精神は戻った。
気が付くと、時計の針が1時間と云う単位を過ごした事を
教えて呉れた。
もう、夜が明ける。