其の人。

いつも、悲しそうに笑っている人を僕は知っている。
何でも自分で背負い込む性癖があって
潰れそうな位に必死な人を知っている。
其の人が奏でるメロディーを知っている。
何時も、僕の隣にいてくれるのに
僕には一番遠い存在の人を知っている
其の人の悲しい顔を見ると僕は手を握り締めて
何処にも行かないで欲しい事を訴える
そんな時、決まって其の人は
迷子の子供を見る様な顔をして僕の頭をクシャクシャに撫でて
頬に優しく口付けをしてくれる。
僕の記憶している其の人の笑顔は何時も
そんな記憶ばかりだった。
そんな悲しい笑顔を僕にくれる其の人は
無条件に人を信じて
不条理に傷ついている
そんなのは馬鹿だと僕は何度も怒った。
僕が自分の事ではなく
掛値なしに誰かを怒った事なんて
その人を除いては他にいないと断言できる。
其れでも其の人は僕に悲しそうな笑顔を向けるだけだった
今思えば、其れが其の人の僕に対する
精一杯の愛情だったんだと思う。