若者と老害。

近頃の青年は我々時代の青年と違って自我の意識が強過ぎていけない
我々の頃にはする事為す事一つとして他を離れた事はなかった
凡てが
君とか
親とか
国とか
社会とか
みんな 他本位であった
其れを一口に言うと教育を受ける者が悉く偽善家であった
其の偽善が社会の変化でとうとう張り通せなくなった結果
漸々自己本位を思想行為の上に輸入すると
今度は我意識が非常に発展し過ぎて仕舞った
昔の偽善者に対して今は露悪家ばかりの状態にある
君も其の露悪家の一人
昔は殿様と親父丈が露悪家で済んでいたが
今日では各自同等の権利で露悪家になりたがる
尤も悪い事でも何でもない
臭い物の蓋を除れば肥桶で
美事な形式を剥ぐと大抵は露悪になるものは知れ切っている
形式だけ美事だって面倒なものばかりだから
みんな節約して木地丈で用を足している
甚だ痛快である
天醜爛漫としている
処が、此の爛漫が度を越すと露悪家同士が御互いに不便を感じてくる
其の不便が段々高じて極端に達した時利他主義が又復活する
其れが又形式に流れて腐敗すると又利己主義に帰参する
詰まり際限は無い
我々はそう云う風にして暮らしていくものと思えば差し支えない
そうしていくうちに進歩する
夏目漱石著 三四郎