私欲は自己愛の塊である
魂の抜けた肉体は何も見えず 何も聞こえず 何も知らず 何も感じず全く動かないが
其れと同じで私欲から離れた――仮にそういうことが有り得るとして――
自己愛も 何も見ず 何も聞かず 何も感じず全く動かなくなる
其れ故 私欲に駆られて陸と海を自在に走り回っていた同じ人間が
他人のためとなると突然躰が麻痺して仕舞う
或いは会談中 我々が自分のことばかり話していると
聞いている者は誰も突然眠気に襲われたり仮死状態になったりするが
逆に相手に関わる話題を混ぜると早速彼らは生き返る
此んな風にして会話に於いても交渉ごとに於いても
ひとりの人間が自分の利害が近付くか遠ざかるかに応じて
一瞬にして意識を喪ったりまた意識を取り戻したりするさまを見ることが出来る