「」へ。

秋風の吹き出す此の時が来ると思い出す。
あぁ。
もう1年と云う月日が過ぎたのだと。
僕は愕く程に生きていた。
1年前は想像も出来ない程だ。
ネックチェーンを握り締めたって
もう、還らない時を願ったって
何にもならない。
命の尊さを教えてくれたと云うのに。
僕は未だ無邪気に只死を望むよ。
君に逢わせる顔は何処にあるのだろう。
君に語りかける言葉は何だろう。
君と酌み交わす酒は何だろう。
あの時のように、地酒で乾杯デモするかい?
君の居ないテーブルの反対側に
君の好きだった曲をかけて
グラスを傾けるよ。
そうするとね。
君が僕の向かい側に座って居てくれる様な気がするんだ。
キンキンに冷やしたイツモの酒で
痴話話でも繰り広げようじゃないか。
1年後。
時の止まった君への餞の会に僕は行かない。
散々悩んだけれど。
其れは所詮、現世に残された人間共の自己満足に過ぎないからだ。
そんな事よりも、此処でこうやって酒を酌み交わす方が
僕にとっては君への餞になるだろう。