長雨。

夏を告げる春の長雨に誘われて
僕は君に出会った。
君の紡ぎ出す言葉を紐解いて
僕は思索に耽った。
君の哲学に触れる時
僕は世界でたった一人君の言葉を聞く権利が
与えられた様で無性に嬉しかった。
何処迄も、君に近付けば遠くなって行く君の笑顔に
そして、そんな君の存在に
恥ずかしながら僕は恋をしてしまった。
坂を降りた先にある喫茶店
マスターが美味しいと自慢するブレンド珈琲があって
君も同じ様に美味だと絶賛していた。
味の分からない僕は
偶に独りで其の喫茶店を訪れては
美味しいとも解らない
其のブレンド珈琲を注文してみたりもした。
少しだけ…少しだけ君に近付けた心持になって
僕は只、君の笑い方を真似した。
そして、何処か悲しそうな顔だとマスターは言った。
大人になると空を飛べなくなる気がして怖い
と言う僕は、空を飛んだことが1度もないだ。
なんて滑稽な話もしたっけ。
君は微笑みながら自分の人生哲学を僕に享受しようと試みた。
僕は君に近付きたくて
君の脳髄の片隅に僕という存在を常駐させたくて
君の思考過程を真似る毎日を送った。
君と同じ本を読み
君と同じ物を食べ
君と同じ音を聞き
君と同じ温度の中にいた。
君を知れば知る程
僕は君から遠くなって行く気がした。