貧楚な美食主義の儚い片鱗とは常に有する気苦労であるのだろうか?

彼等はよく笑う。
何でも無い事にでも大声立てて笑い転ける。
笑顔を作る事は
青年達にとって
息を吐き出すのと同じ位容易である。
何時の頃から其んな習慣が附き始めたのであろう。
笑わなければ損をする。
笑うべきどんな些細な対象をも見落とすな。
嗚呼、此れこそ貪婪な美食主義の
儚い片鱗ではないだろうか。
蹴れども悲しい事は、彼等は腹の底から笑えない。
笑い崩れながらも、己の姿勢を気にしている。
彼等は亦、よく人を笑わす。
己を傷付けて迄、人を笑わせたがるのだ。
其れは、何れ例の虚無の心から発しているのであろうが
然し、其のもう一枚底に
何か思い詰めた気構えを推察出来ないだろうか。
犠牲の魂。
幾分投げ遣りであって、此れぞと云う目的も持たぬ犠牲の魂。
彼らが偶々、今迄の道徳律には勝手さえ
美談と言いえる立派な行動を為す事のあるのは
全て此の隠された魂ゆえで或る。
太宰治著 道化の華