教師と生徒。

なぁ先生
アンタは其う遣って俺の話を親身になって聞いている振りをして
共感している振りをして
「辛かったね」何てオベンチャラを平気で口にしているけれどさ
アンタだって此の場を立ち去って家に帰れば
愛しているだろう家族が居て
今とは想像の出来ない笑みを浮かべるんだろ?
其の場丈の同情を振り撒いて
独りの生徒を救うだなんて大それた思い違いをしているだろうけれど
俺には其んなもの必要ないよ
此処で神妙な面持ちをしているアンタと
家族の前で笑みを浮かべているアンタの差が厭なわけじゃないんだ
四六時中を俺の事を心配して欲しいなんて事は
コレッポッチも考えちゃ居ない
干渉して欲しくない丈
唯其れ丈何だ
だから放って置いて呉れよ
俺が生きようが死のうがアンタの人生に関係ないだろ
関係有るとすればアンタの教師人生の中に一点の紙魚を俺が残す位のものだ
其れが一体何になる
確かに遠藤周作はと或る本の中で主人公に騙らせているよ
人と関った以上どんな小さな事でも相手の人生に爪痕を残さないで
関る事は不可能だってね
然し俺の残す小さな爪痕なんて意味を持たない
其んな言い方をすると御幣が有るかな
俺の人生がアンタに何かしらの意味を持つのなら関ってくれって
其う云っている様なものだからね