巧妙。

そろそろ、月が満ちる。
そういう時、僕は決まって
ウィスキーのボトルを開ける。
普段は開かれることの無い
禁断の扉を開け其の美しさに
僕の心を惜しげもなく差し出す。
この世に此れほどまでに
美しいものが存在するのだろうか?
普段は得ることの出来ない
得体の知れない安心感を
一瞬だけ得ることが出来る。
偶にはヒルティの理論に酔わされるのも
悪くは無い。
煙草を吹かしながら
ドビュッシーの世界に浸り
僕はこんなにもチッポケな存在なんだと
改めて確認し居た堪れない気持ちに溺れる。
こんなにも穢れない素晴らしい月を
彼等も目にしていたのだろうか?
僕の尊敬する偉人たちに
少しばかり近づけたような気がした。