扉。

工業技術というものは、何よりも現実に即した技術であり
一人の技術者の才能よりは
其の時代の技術水準一般に追う所の多いものだ
真の鉄道の時代が来て
初めて鉄道の敷設は行われ得る
時期の到来しない内は、如何に足掻いても無駄なのだ
例えば、ラングレイ教授の場合を見るがいい。
あれ程の飛行機の実現に心を砕き
必要な才能の全てに恵まれ
実際本質的な問題は解決していながら
僅か数年間時期が早かった為に
飛行機の完成に必要な
然し、極めて従属的な技術を持てず
遂に飛行機を空に飛ばす最初の栄誉を習得出来なかった。
更には、かの偉大なるレオナルド・ダ・ヴィンチにしてもそうだ。
彼の最も輝かしい考察の大部分は
全て技術的に製作不可能なものばかりだったではないか。
【R・A・ハインライン著 夏への扉